性感染症は、性行為があれば誰でもかかりますし、いけない性行為をしたと思い込む必要はありません。そして、具体的に行うべき治療や今後のパートナーとの関係性、他人にうつさないことを丁寧に伝えましょう。まずは検査に来たことを評価して、性交が再開できるタイミングに関しても前向きに考え医療者が伝える配慮が必要です。
性感染症の基本は性的な行為によって皮膚や粘膜から病原体が感染することで、罹患します。カウンセリングでは、どのような行為で感染症にかかったのかを知るために、具体的な内容を聞き出すことが重要です。たとえば口腔感染は、口同士のキスでは感染しないものの、口と性器や肛門への接触があった場合は感染しやすいためです。
日本ではコンドームが避妊目的で使われていますが、コンドームは性感染症予防として高い効果を発揮します。ただ、性感染症予防として特に有効なのは、パートナーが変わる度に定期的に感染症の検査を受けることであって、コンドームで全ての感染症が防げる訳ではありません。特にヘルペス、コンジローマ、梅毒などは、自覚がないまま感染部位と接触してしまう可能性があります。
また、バイセクシャルの男性や男性同性愛者には、特に性感染症予防としてのコンドームが重要であることをしっかり伝える必要があります。
性感染症の症状は、男性の場合、陰茎皮膚の病変、亀頭部粘膜の病変、尿道炎、睾丸炎、前立腺炎などがあり、女性の場合は外陰部皮膚の病変、小陰唇周囲の病変、尿道円、膀胱炎、腎盂腎炎、腟炎、子宮頚管炎、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎、肝周囲膿痕などの炎症が特徴となります。特に男性も女性もクラミジア、淋病の性感染は不妊の原因となる場合もあるため、疑ったら検査や治療が必須となります。
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性感染症各論
陰部ヘルペス
ヘルペス自体はありふれたウイルスですが、陰部ヘルペスは性的な接触で起きる感染症です。潜伏期間は1週間程度で、小さな水疱が多発した後、潰れて潰痕化します。思い当たる性行為がない場合は、過去の感染による既感染の初発の場合もあります。ヘルペスは再発が起こりやすいことと、初回の感染症状が激烈であることから、性交に対してネガティブな感情を持ちがちです。そのため、合わせて精神的なフォローアップも必要となります。
クラミジア感染症
クラミジアは若年女性に多い感染症です。男性の場合は尿道炎症状、女性は透明な帯下など軽めのな症状が主です。どちらかがかかった場合はパートナーも検査すべきですが、男性が原因の場合でも検査で陰性のケースがあります。特に感染源を特定しにくいのでパートナー間で揉めないよう注意して伝えましょう。
治りやすいものの、性行動を改めないと再感染も多くなります。女性の場合は子宮頚管は陰性でも、腹腔内PCRが陽性の場合もあります。男女共に不妊の原因になりうる感染症です。
淋菌感染症
淋菌感染症は、男性に多い性感染症です。尿道炎を起こし、強い痛みと膿が発生します。女性の場合では膿状帯下が見られます。クラミジア感染と共に起きることが多く、咽頭感染でも移りやすいため注意が必要です。梅毒
梅毒は、2013年頃から若い女性に急増中の性感染症です。早期頸症梅毒第Ⅰ期では初期硬結、硬性下患、早期頸症梅毒第Ⅱ期では、症状がなくなった後に掌や足の裏を含む多彩な皮疹、粘膜疹、扁平コンジローマなどが出現します。治療にはペニシリンGの筋注単回投与が望ましいとされていますが、国内では認可されていません。経口合成ペニシリン製剤を1~2ヵ月内服して治療して、抗カリジオリピン抗体価の低下を確認します。
HIV/AIDS(後天性免疫不全症候群)
HIV(AIDS)は、異性間でも感染するものの、男性同士の肛門性交が出血しやすいことからリスクが高いとされています。そのため肛門性交では特に毎回コンドームを使う必要があります。初期症状は軽微なものの、CD4リンパ球が減少するとAIDS関連症候群として発熱や下痢などが起こります。AIDSが発症に至ると、日和見感染や悪性腫瘍などの様々な免疫不全を併発します。
HIVが陽性になった場合でも、治療薬が進歩したことにより平均寿命はHIV陰性とさほど変わらなくなりました。
尖圭コンジローマ
HPV感染によって起こるHPVの中でも良性型と呼ばれています。潜伏期は3週間から3ヵ月と長く、症状が出るのも緩やかで自然治癒することもあります。ただ放置すると、ニワトリの鶏冠状のいぼができ、外科的切除が必要になる場合もあります。
トリコモナス腟炎
鞭毛を持った原虫が水を介して感染するため、人から人だけでなく、温泉施設などでも感染します。症状は泡沫状帯下と掻痒感で、カンジダのクリーム状の帯下と誤診しやすいため注意が必要です。メトロニダゾールか腟錠で治療を行います。
アメーバ赤痢
赤痢アメーバ原虫によって感染し、主に肛門性交が原因で起こります。症状は粘血便、下痢、しぶり腹などの症状があり、メトロニダゾールで治療を行います。性感染症のリスクを軽減する方法
パートナーが変わるごとに検査を受ける
性交の前にお互いが性感染症に関する検査を受けて、陽性事項があれば治療を行います。なければパートナー間で感染症が発生する可能性は低いでしょう。違和感を感じたら早めに受診する
かゆみ、痛み、水疱、いぼ、のどの痛みがあって、性感染症の疑いがあればすぐに受診をすること。受診先は性病科、泌尿器科、産婦人科以外にも、皮膚科や耳鼻科があります。コンドームを着用する
相手の性感染症に関する情報がない場合は、コンドームの装着は最低限の予防策となります。傷のない皮膚は比較的安全ではあるものの、粘膜は傷つきやすく、感染リスクは十分にあります。その他の注意点
相手や自分に複数のパートナーがいる場合は、コンドームの装着は必須です。もしできれば関係者全員に性感染症検査を受けてもらうのが最も安全です。パートナーがコンドームを付けてくれない場合は定期的に性感染症検査を受けて早期発見に努めるしかありません。性感染症に感染することは特別に悪いことではありません。淡々と治療を行いながらも必要に応じて家族やパートナーに病状を説明します。特に妊娠している場合は胎内感染によるリスクの話を説明することが重要です。
まとめ
今回は、疾患別のセックスセラピーとして、性感染症の症状やカウンセリングの重要性をまとめました。病気にかかりたいものがないように、性感染症にかかってしまったことによる自責や偏見を解いてあげることが重要となります。参考文献
1)日本性感染学会.性感染症 診断・治療ガイドライン2016
http://jssti.umin.jp/pdf/guideline-2016.pdf
2)国立感染症研究所HP
http://www.niid.go.jp/niid/ja/
3)Yi S,Tuot S,Mwai GW,et al.Awareness and willingness to use HIV pre-exposure prophylaxis among men who have sex with men in low and middle -income countries :a systematic review and meta-analysis.J Int AIDS Soc.2017;20(1):21580
4)Ali H,McManus H,O,Connor CC,et al. Human papillomavirus vaccination and genital warts in young Indigenous Australians:national sentinel surveillance data.Med J Aust.2017;206(5):204-9