しかし、性機能不全や夫婦間での性に関する葛藤の解決には十分至っているとは言えず、専門的な取り組みが必要だと考えられます。
性機能不全によって生じる不妊
現在、性機能不全は不妊の定義から抜け落ちているのが現状です。不妊原因の1つに、性機能不全を加える必要があると考えられています。不妊と直結する性機能障害は、男性は勃起障害(ED)、射精障害、女性は挿入障害となります。また、男女共に性嫌悪障害だった場合は、性交が行われず不妊になります。
その他だと男性の性欲低下障害も勃起障害が起こる原因となり性交ができず不妊となります。
状況によって性交ができたとしても、女性の性的関心と興奮障害、性交疼痛障害、骨盤・性器の疼痛障害の場合は、結果的にほとんど性交が難しいことから不妊になるでしょう。
図23は、性機能不全による不妊症と拳児希望の割合をまとめたものです。最も多いのはワギニスムス(挿入障害)で、妊娠するために婦人科医を受診していることが分かります。また、性に対して嫌悪感を持ってしまう性嫌悪障害の場合も、半数が挙児希望を持っていることがわかります。
性に対する価値観と生殖医療に関しては、考え方が多様化しています。不妊治療を自然とは反するものだと考えて、受け入れがたいと考える人もいます。
性交ができないことに関しては、様々な理由があります。心因性の問題では、自身が同性愛指向であることに気付く人もいます。
性機能不全で不妊に悩んでいる患者には、性治療、生殖医療どちらの立場からも不安と焦りを抱えている相手に十分な情報を提供した上で、相手に選択できるように配慮する必要があります。特に高齢な患者に対してはまずは生殖医療を進めたくなるかもしれません。ただ、どちらも簡単に解決する問題ではなく、適切に方向性を定める必要があります。
挿入障害の患者に関しては、腟鏡診、経腟超音波診といった産婦人科診察が受け入れられない場合もあります。この場合はまず、産婦人科での治療を受けられるようになるのを目標に治療する必要があります。
不妊治療によって起こる性機能不全
不妊治療が長期で続いてしまうと、排卵期のみにしか性交をしなくなったり、ストレスでセックスレスとなって不妊治療に支障をきたすケースが増えます。この問題は不妊治療を行う上で、性機能不全よりも多く起こる問題となります。不妊治療で起きるセックスレスでは、排卵日のみの勃起障害や女性の性欲低下に繋がります。特にこの場合は、夫婦間での愛情表現や楽しみとしての性生活ではなくなってしまうのが大きな問題です。
排卵日のみに集約されてしまった性交の背景としては、夫婦それぞれが自尊感情を失ってしまうケースが多くあります。
調査によって、不妊治療によって強い負の感情を受けているのは女性の方であるというデータがあります。治療が長期化すれば、性機能不全になってしまう可能性は高くなります。そうなると不妊治療自体が難しくなってくる上、治療自体が患者のQOLを低下させてしまうことを、治療側は念頭に置いておかなければなりません。
そのため事前のオリエンテーションや治療経過中のカウンセリングでは、統計的にも問題が起きやすいことを伝えていく必要があります。
慢性疾患と不妊
悪性疾患を含め、慢性疾患や治療が長期にわたって影響を及ぼす場合にはQOLへの配慮が必要です。特に性生活においては疾患ごとにアプローチが必要になりますが、組織的な取り組みのある分野は現状ありません。妊孕性温存に関しては、取り組みが進んでいます。精子温存に次いで卵子、卵巣の凍結保存技術も進歩し、施設も増えています。女性の妊孕性温存の方法としては、受精卵の凍結保存、卵子・卵巣の凍結保存、卵巣の移動、化学療法中の卵巣機能抑制、子宮がん、卵巣がんにおいて早期発見を含めた縮小手術の追求、性機能の維持などが挙げられます。
ただ卵子、卵巣の保存ができたところで、それを使った妊娠までには大きな課題が残っています。特に妊孕性温存は生殖医療と共に心理学的配慮が同時に必要となるでしょう。
参考文献
1)大川玲子.特集 生殖医療におけるカウンセリング. 女性性機能障害に関するカウンセリング.産科と婦人科.2013;80(11)1492-6
2)Czykowska A,Awruk K,Janowski K.Sexual satisfaction and sexual reactivity in infertile women:the contribution of the dyadic functioning and clinical variables.Int J Fertil Steril.2016;9(4):465-76
3)Peterson B,Boivin J,Norre J,et al.An introdaction yo infertility counseling:a guide for mental health and medical professionals.J Assinst Reprod Genet.2012.29(3):243-8