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公開日:2021/02/26
最終更新日:2021/11/16

セックス外来とは?女性性機能不全治療のステップ【産婦人科専門医が解説】

記事監修

丹羽咲江
名古屋市立大学医学部
日本産科婦人科学会産婦人科専門医,日本性科学会 幹事,日本性科学会認定セックスセラピスト

投稿日:2021年2月26日 更新日:

女性機能不全の種類と治療のステップ

セックス外来とは

セックス外来とはセックスに関わるオーガズム障害、性的興奮障害、挿入障害などの女性機能不全の診療を言います。これらはインテイクによって原因をさぐりつつ、それぞれいくつかの段階に分けて治療が必要になります。

セックス外来①オーガズム治療の7ステップ

女性はオーガズムによって絶頂に達しますが、全ての女性が初めての性体験でオーガズムを得られるわけではありません。経験を積むにつれて、オーガズム経験を得る人の割合は増えていきます。
ただ、基本的には神経や婦人科的な疾患がない限り、誰でもオルガズムを得ることができるとされています。
オーガズムが得られない原因は、その日なんとなく気分が乗らないといったものからパートナーに対する不満、もしくは根本的に性に対してネガティブでマイナスな感情を強く持っているなどが挙げられます。
治療には心理的なアプローチが必要になりますが、患者には抵抗を持たれることも多くあります。

①インテイク

インテイクでの重要なポイントは、治療の動機と、充分な刺激があるのにオーガズムを得られないのか、刺激がなくてオーガズムを得られないのかの確認をすることです。
動機を確認するのは、パートナーとの関係が、オーガズムを得られないことではないかと悩んでいるケースが多いためです。特にパートナーとの関係が悪化していて理由が自分の不感症だと考えている場合は、セックスに関するカウンセリングではなく関係性の解消のためのカウンセリングをメインとした方が良くなります。

②情報の提供

十分な刺激を受けられずオーガズムを感じられていない場合は、カップルの性に関する考え方を修正する必要がある場合が多くなります。
たとえば男性はセックスは自分が楽しむものと考えていて、女性は妊娠が目的で楽しむことは2の次と考えているのであれば、2人で楽しむものであることだと修正する必要があります。また、オルガズムを得るためにはクリトリスへの刺激が重要であることを男性に理解してもらう必要があります。
もし十分に刺激を受けているのにオルガズムを得られていない場合は、女性が1人での方がオーガズムを得やすいことを伝え、1人でオーガズムを得る練習をしてもらうところからスタートします。

③タッチング

タッチングは、性的な触れ合いではないものも含め、カップルがお互いに触れ合う治療法の1つです。
カップル2人が裸になり、一方がうつぶせになって他方が体の末端から少しずつ触れていきます。次に、あおむけになって同じことを行います。この時、集中して触れられている感覚を味わうことが重要で、世間話はしてはいけません。セックスに対する罪悪感を取り払い、触れている方は触り心地を味わうことに意識を集中させます。
終わった後はお互いに感想を述べあい、どう感じたかを伝えましょう。

④セルフタッチング

患者自身が、自分で自分の性器に触れてもらいます。マスターベーションだと罪悪感を感じてしまう人がいるので、あえてセルフタッチングという言葉を伝えましょう。
オーガズムを得るのが目的ではなく、自分の体に指の圧力がかかり、どういった感覚を得るのかを味わうのが重要です。

⑤性的空想

セルフタッチングに慣れてきたら、性的に興奮できる空想をしながらセルフタッチングを行ってもらいます。性的空想をしながらセルフタッチングをすることで興奮しやすいだけでなく、性的な意識を持つことに対する罪悪感を低減できるメリットがあります。
オーガズムを得るのに重要とされている、オルガズム相に切り替わるためには、性的気分に没入できる状態が望ましいとされています。
この性的気分に没入できない人は性に対して罪悪感を感じてしまう傾向にあり、性的空想によってオーガズムを得やすい状態に入り込みやすくなります。

⑥ケーゲル体操

ケーゲル体操とは、膣周辺の筋肉を締め、数秒後に緩める運動を繰り返すことです。オーガズムでは腟周辺の筋肉が収縮します。オーガズム障害のある人は膣周辺の筋肉が緩んだままになっている人が多いため、ケーゲル体操を行うことで筋肉を動かすトレーニングとなります。
意識できない場合は、尿を止める動きと出す動きを意識すると感覚が把握できます。10回1セットで、1日2~3セット行うのが望ましいとされています。

⑦パートナーとの共有

自分でオーガズムを得られるようになったら、ケーゲル体操や性的空想を駆使して実際の性交時にもオーガズムを得られるよう練習を行いましょう。
ブリッジテクニックという方法で、オーガズムを得る方法があります。これはまず、パートナーにオーガズムしやすい刺激の方法を伝え、クリトリスを刺激してもらいます。オーガズム寸前になったら挿入をして、オーガズムを目指します。クリトリスの刺激と性交の橋渡しをするため、ブリッジと名付けられています。
男性が我慢できなければ無理に止める必要はなく、射精しても問題ありません。これをくり返すことでお互いにコツが掴めるようになります。

セックス外来②性的興奮障害治療の4ステップ

マスターベーションをしても性的な興奮が起きない場合や、マスターベーションでなら興奮できるけど、実際の性交時には興奮できない場合性的興奮障害となります。
オーガズム障害と同様に、いくつかのステップに分けて治療を行いましょう。

①インテイク

性的興奮障害のインテイクで重要なのは、治療動機の確認です。オーガズム障害と同様に、パートナーとの関係が性的に興奮できない場合があるためです。

②タッチング

性的興奮障害の治療のためのタッチングでは、第一段階として性器を触れることを禁止します。これは、性交で快感を得なければならない強迫観念や相手への気遣いを忘れて、ただ触れ合うことを楽しむためです。

③性器へのタッチング

タッチングでお互いにスキンシップの心地よさが味わえたら、性器へのタッチングへステップを移します。男性は女性の体を十分にタッチングした後に、乳首、乳房、クリトリス周辺、膣口を優しく触れていきます。
オーガズムを与えるためのリズミカルな触れ方ではなく、丁寧にじらすような優しい触れ方で触りましょう。以下の図のような触れ方が推奨されていますが、触れ方や体位はどのようなものでも問題ありません。
最も良い触れ方を伝えあい、好みの触れ方で触れることが重要です。

④性交

性器への刺激で性的な感情が引き起こされるようになれば、それぞれのペースで性交に移りましょう。挿入は、タッチングと性器への刺激を十分に行ってからです。ピストン運動はゆっくりと行い、刺激や感覚に集中しながら行います。

セックス外来③挿入障害治療の4ステップ

挿入ができない女性は多くいるとされていて、日本性科学カウンセリング室では4~5割の女性が挿入障害を訴えています。女性の多くは、膣の器質的な原因がなくとも痛みを訴えていて、心理的な要因が多いと考えられます。

①インテイク

挿入障害でのインテイクで重要となるのが、拳児希望についてです。特に拳児希望だけが治療目的の場合は、挿入障害の治療の意味や男性側の動機と異なっていないか話し合う必要があります。

②科学的な情報の提供

前提として、処女膜を破る行為が痛みを伴うと認識している人が多くいますが、これは誤りです。このイメージが強いことから必要以上に緊張や恐怖の感情が強くなり、尚更膣けいれんを起こしやすくなっていることを理解してもらいます。

③診察

器質的な問題がないかどうか、膣けいれんがないかの内診を行う必要がありますが、拒否されるケースは多くあります。基本的には内診そのものが訓練となることを伝えて前向きに検討してもらうのが良いですが、それでも拒否された場合は時期を待ちましょう。
この段階では膣に問題がないことを患者に理解してもらうことが重要となります。

④パートナーとの関係調整

パートナーの男性に来てもらい、挿入障害に関する不安や困っていることをカウンセリングします。多くの場合挿入障害に困っている女性のパートナーとなる男性は、治療に協力的である場合が多くなります。
男性に改めて協力を約束してもらうことで患者の治療意欲を高めやすくなります。

⑤リラックスの習得

リラックスをすることで、膣けいれんは起こりにくくなり、挿入に対する恐怖感も和らぎます。そのため、ここから紹介する方法でリラックスを習得してもらいます。

⑥性器に馴染む

女性は、自分の性器を見たことがないという人が多くいます。性器と向き合い、性器の図と自分の性器を鏡で見ながら比較をしてもらいます。
ここで否定的な感情が出ていると挿入障害は解消しにくいため、否定的な感情が消えるまで繰り返してもらいましょう。

⑦タッチング

オーガズム障害や挿入障害で行うのと同様に、お互いの体や自分の体に触れて感触を確かめます。ここでは性的な興奮が目的ではなく、スキンシップを味わうことや、自分の体に慣れてリラックスできるようになることが重要です。

⑧自分で行う挿入練習

次は、段階的に様々なサイズのものや指を挿入する練習をします。自分の指の方が良いか、綿棒やタンポンの方がやりやすいかは患者によって異なるため、自分に合った方で練習してもらいましょう。
性的な興奮が起こっていないため、潤滑ゼリーを使って練習してもらいましょう。最終的にはペニスと同様の大きさの物を挿入できなくても実際の挿入ができる場合も多いですが、実際のペニスサイズの挿入を練習したがる患者もいます。練習器具は自分で工夫してもらいましょう。

⑨パートナーが行う挿入練習

挿入ができるようになったら、パートナーに挿入の練習をしてもらいましょう。自分で挿入は出来ても、パートナーに挿入してもらうのに恐怖を感じる人は多くいます。

⑩ペニスの挿入練習

実際にペニスを挿入する場合、女性上位の方が男女療法に負担が少なくなります。女性が自分のペースで挿入できるためです。勃起しているペニスの挿入が不安な場合は、勃起していないペニスの亀頭を挿入する方法もあります。
女性上位に慣れてきたら、男性上位での挿入を練習してみましょう。

まとめ

まだまだセックス外来という診察はデリケートなお悩みであり、なかなか他人には相談できない内容です。
女性の機能不全はいずれも心理的要因であるケースが多くなります。特に、性に対して不潔な印象や最初の性交は激痛が伴うといったイメージは強くマイナスとなっています。
タッチングによって触れ合う感覚を楽しめるようになれば、徐々にオーガズム障害、挿入障害、性的興奮障害は解消できます。それぞれのペースで段階を踏んで練習してもらいましょう。
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参考文献
1.Kaplan HS.野末源一訳 ニュー・セックス・セラピー.星和書店.東京.1982
2.金子和子.渡辺景子.女性の性機能障害に関する疑問と提案1.日本性科学会雑誌.1998:13(1)16‐21
3.大川玲子.性機能についての比較検討.日本性科学協会雑誌.2014:32(supple):47‐56

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