オーガズムとは?
オーガズムの語源は?
ギリシャ語の「orgamos」です。この言葉の意味としては「熟する」、「膨れる」、「好色な」といった性的なイメージを連想させる意味を含んでいます。女性がオーガズムに達したときにはどのようなことが起こっているのでしょうか?分かりやすい反応としては、生殖器に関連する筋肉が収縮と弛緩によって脈動することです。
具体的に、子宮、子宮頸、腟、尿道、前立腺、肛門の筋肉が早いリズムで力強く収縮することがオーガズムの起きたときの特徴と現在では認識されています。実際、女性にオーガズムが起きたとき、骨盤の底に張り巡らされている骨盤底筋群が一斉に波打ちはじめます。この反応なしではオーガズムが起きないため、この現象がオーガズム発生のための基盤だとも考えられています。
女性がオーガズムに達したときに示す筋肉の反応に関して様々な研究結果があります。その1つは、オーガズムに達したときに、どの程度筋肉が脈動しているかというものです。
オーガズムの筋肉反応の数は?
約1秒の間隔で5回から15回収縮するという報告があれば、0.8秒間隔で4回から8回という報告もあります。筋肉の収縮パターンも様々で、規則的な場合や不規則な場合、その両方が入り交じる場合もあります。このように、強さや振動数、振動パターンなどは人によって様々で、オーガズムの基盤とされている骨盤底筋群の収縮パターンにも個性があります。
他にも、20世紀後半に行われた研究で明らかにされた女性と男性のオーガズムに関する興味深い事実があります。例えば、オーガズムまでにかかる時間は、そのときのムードやオーガズムに至るまでの過程といった様々なことに左右されることです。実験室では女性が15秒でオーガズムに達したこともありました。オーガズムの継続時間は人や状況によって左右され、筋肉の収縮が13秒~51秒続き、体感では7~107秒続いたという研究結果があります。
オーガズムの強さとオーガズムに達するまでの時間の関係
このような結果を受け、オーガズムの強さとオーガズムに達するまでの時間の関係を解き明かすことを目的とした研究もあります。その1つが、複数回のオーガズムを経験する女性と、実験中にオーガズムに達した回数が1回だけの女性がオーガズムに達するまでの時間を比較した研究です。複数回の女性が最初にオーガズムに達するまでの時間は平均して8分でした。その一方で、オーガズムに達した回数が1回だけの女性の場合は平均すると約27分の時間がかかりました。面白いことに、複数回の女性が1回目のオーガズムに到達した後に、2回目のオーガズムに達するまでの時間は平均して1分~2分程度でした。さらに、2回目のオーガズムに達した後は更に達するまでの時間が減少しました。その時間は30秒間隔ということも稀ではなく、15秒間隔という記録もいくつかあります。
もちろん、オーガズムに達したときの体で起こる反応は筋肉以外の器官でも見られます。心臓血液系、呼吸器系、内分泌系などで強い反応を観測することができます。こうした反応もオーガズムが起きたときの特徴と考えられています。例を挙げると、女性であれ男性であれ心拍数と呼吸数が倍増し、血圧は通常の3倍増しになり、瞳孔が開きます。また、女性の4人に3人には胸の間が赤くなる傾向も見られます。
オーガズムの謎
他にも、女性のオーガズムには疑問点があります。「オーガズムには複数の種類があるのだろうか?」「オーガズムの中で優れているものはあるのだろうか?」ということに関しても議論が交わされています。オーガズムに達するために必要な感覚は、生殖器から神経を通って脳へと伝えられます。その経路は刺激を与える感覚器官によって異なるため、オーガズムに達するまでの過程は刺激を与える場所によって変化していきます。
オーガズムに至る4つの刺激?
「クリトリスへの優しい愛撫」「尿道やGスポットに集中した刺激」
「子宮頸を繰り返し突かれる刺激」
「腟内の筋肉を締め付けるような刺激」
といったものがあります。オーガズムが神経回路を利用したものであることから、生殖器ではなく肛門を利用した性交であってもオーガズムに至るのは、直腸にある下腹部神経が大きく関わっていることが推測できます。
あえてオーガズムに至るような刺激を受けやすい場所に順位をつけるとすると、クリトリス、Gスポット、子宮頸、腟内、肛門の順番になります。一方で、実際のオーガズムでは特定の神経経路だけが刺激されることはほとんどないため、いくつかの刺激が合わさったオーガズムを経験することがほとんどです。
オーガズムと神経の関係
上述したような女性のオーガズムが起きる仕組みについての研究は世界的に進められています。その中でも大きな結果を出したのが、オーガズムに至るような刺激を神経がどのように伝達しているかという研究です。
その1つは、
完全な脊髄損傷の状態にある女性が睡眠中に体験したオーガズムについてです。
完全な脊髄損傷の状態になると、損傷した脊髄より下の部分では針などで刺されたとしても痛みを感じません。体の内部だと直腸の感覚がなくコントロールもできなくなります。このような状態でオーガズムに至ることは医学者から「錯覚オーガズム」として否定されてきました。その一方で、胸より下の部分が麻痺して感覚がない女性から「女性器の中に感覚があるようだ」「性交中に腹部に心地よさを感じる」「月経のときに子宮が締め付けられるような感覚がある」といった報告もありました。
このような報告は医学者にとっては非常に難しい問題でした。と言うのも、それまで知られていた医学では、生殖器やオーガズムの感覚を伝達させるために脊髄を通すことを必要とします。脊髄が損傷している状態では感覚を伝達するための経路が断ち切られているため、生殖器は無感覚になるはずです。このような背景があったため、報告は多数ありましたが「錯覚オーガズム」としてこのような方々が体験するオーガズムは否定され続けていました。
ですが、1990年代に完全な脊椎損傷の状態の女性を対象にした調査によって、このようなオーガズムを体験する科学的な根拠が明らかになりました。脊椎を損傷していたとしても、子宮頸や腟への刺激によってオーガズムが引き起こされることが示されたのです。
オーガズムの特徴である、心拍数と血圧が上昇し瞳孔が開く状態が観察されました。実際に、脊椎を損傷した女性と脊椎損傷のない女性のオーガズムの状態を比較すると、見分けがつかいほど類似していました。その研究に参加した脊椎を損傷した女性も実際に生殖器に刺激があったことを話しています。その脊椎を損傷した女性は子宮頸への刺激を「腹部の奥深く、吸引するような心地よい感覚」と表現しました。その女性は疑いようのないオーガズムを体験していました。
脊髄を損傷している女性は具体的にどのような方法でオーガズムを感じたのでしょうか?
その答えは、迷走神経と呼ばれる神経にあります。迷走神経は体中に枝分かれしていて、主要な器官に張り巡らされている奇妙な神経です。迷走神経は脳から瞳孔や唾液腺、心臓、肺、腸、膀胱、副腎など体中を巡っています。何よりも重要なことは、この神経が脊髄を一切通っていないことです。そして、この迷走神経は子宮と子宮頸にも到達しています。完全に脊髄を損傷していたとしても、子宮頸や腟に刺激を加えてオーガズムすら感じることができるのは、生殖器と脳が迷走神経でつながっていることが原因でした。迷走神経は脊髄を一切通らないため、脊髄の状態に関係なく生殖器の感覚を脳に伝えることを可能としたのです。この神経が男性にも同じような効果をもたらすかどうかは今のところ分かっていません。
ESPと呼ばれる超感覚的な知覚があります。脊髄を損傷した状態であっても、生殖器に対する感覚があるのはそのような超人的な感覚を思い起こさせます。そのような不思議さも人を惹きつけ、迷走神経がオーガズムに大きく関与していたことが発見されてから更に具体的な研究が進められました。
その1つは、完全な脊髄損傷のある女性が、どのような形で生殖器に対して感覚を持ち、オーガズムをどのように感じるかという具体的な内容を2つのグループに分けて検証していく研究です。
研究に参加した1つ目のグループは、子宮頸や腟に対する刺激を意図的に感じることができる人たちです。このグループの女性は、脊髄を損傷していますが、迷走神経を通じて子宮頸や腟に対する刺激を感じることができます。
2つ目のグループは、子宮頸や腟への刺激を通じてオーガズムに達することができる女性たちです。その一方で、前者のグループと比較すると子宮頸や腟に対する感覚自体は感じていないことが特徴です。
本当に子宮頸や腟への刺激に対する感覚がない状態でオーガズムに達することはできるのでしょうか?
疑問を感じるところですが、実験に参加した女性たちは、腟に加えられている振動の刺激を一切感じることなくオーガズムの反応を示しました。このような不思議なことが起こる1つの仮説として、腟が盲視と呼ばれるものに類似した現象を起こしていることが考えられます。盲視とは、視覚に障害のある方が見えていないのにも関わらず、光などの視覚的な刺激を正確に感じることができる現象のことです。脳の中にある視覚を制御している視覚皮質に損傷があると、その程度にもよりますが視覚がうまく働かなくなります。
それにも関わらず、目から入ってくる視覚的な情報について、見えていないはずなのに見えているように反応することがあります。このような盲視と視覚の損傷と同じような関係が、オーガズムと脊髄の損傷の間にも成り立っているという仮設です。これらの研究はまだ初期段階でありますが、腟の盲視という現象は脊髄損傷の状態でもオーガズムに達することをうまく説明しています。
生殖器以外の刺激でのオーガズム
ここまで生殖器に対する刺激について述べてきましたが、生殖器以外の器官でも刺激を与えることによってオーガズムに達することがあります。例えば、乳房、口、耳、足、手などを効果的に刺激することによってオーガズムに達したことが、実験室で行った研究でも観測されています。
性科学者として知られるマスターズとジョンソンは、生殖器以外のオーガズム経験に関する研究を行いました。彼らは生殖器ではなく、首の後ろ、腰のくびれ、足裏、手のひらなどに刺激を与えることで被験者がオーガズムに至ったことを観測しました。このような実験から、全身がオーガズムを引き起こす性的な器官になりうる可能性があると結論付けています。
この実験に参加した1人の女性は、首と耳にバイブレーダーの振動を与えて数分でオーガズムに達しました。そのオーガズムは血圧上昇などの典型的な特徴も見られました。女性はそのオーガズムの経験を「ぞくぞくして押し寄せるような」「全身が腟のなかに入ってしまったような感じ」と表現しています。
このような研究を通じて、オーガズムが生殖器を刺激することなく引き起こされることが立証されました。異なる実験ではありますが、一切の刺激を必要とせず、イメージのみでオーガズムを引き起こすことができるという実験結果もありあります。この実験に参加した女性は、実験室の中で身体に対する一切の刺激を必要とせずに空想のみでオーガズムに達することができました。他にも、脊髄を損傷している状態でも、損傷した脊髄の周辺にある皮膚への刺激によってオーガズムに達したことも報告されています。
他にもオーガズムの特殊な例として、胎児のときに子宮内でオーガズムを体験している様子が観察されています。32週の胎児の女性が右手の指を使って陰部を触っている様子が観察されました。
その指の動きは愛撫するようにクリトリスのあたりに集中し、30~40秒後に1度止まりましたが、その後も繰り返し行われました。次第に激しい骨盤と脚の動きが伴い、胴体と四肢の筋肉を収縮させ、全身の痙攣的な動きが発生しました。最後には胎児の筋肉が弛緩し、休息する様子が観察されました。時間にすると約20分の間に観察された出来事です。
女性のオーガズムの役割
男性のオーガズムには射精という分かりやすい役割がありますが、女性のオーガズムには生物学的にどのような役割があるのでしょうか?1つ例として挙げることができるのが、腟内にある精子を子宮に取り込むことです。男性が腟内で射精してから、女性のオーガズムが1~3分程度に収まっているとき、それ以外の場合と比較すると取り込める精子数の差に約1000万個の差があるとされています。
女性がオーガズムに達したときに子宮が精子を取りこめるのは、オーガズムに達すると筋肉の収縮などによって子宮内や腟に圧力の変化が起こるためです。オーガズムの直後に、筋肉の収縮などを通じて子宮内の圧力が減少して腟との間に圧力差が生じます。
この圧力差を利用して、精子は子宮口を通じて子宮へ吸い込まれます。また、オーガズムの際には、精子を子宮に取り込むための変化が子宮頸にも見られます。オーガズムが近づいてくると子宮頸はどんどんと腟の内部に入りこんでいき、子宮口と腟口までの距離が短くなり、同時に、精子を中に包み込む役割を担っている粘液を排出します。そしてオーガズムに達すると急激な圧力変化が発生して、精子が粘液に包み込まれた状態で子宮内に吸い込まれていきます。
オキシトシンの役割
この動きには下垂体ホルモンであるオキシトシンが大きく関わっています。オキシトシンは脳下垂体後葉ホルモンのことで、分泌することで子宮の収縮や母乳の分泌を促進するホルモンです。オーガズムに達したときにオキシトシンの効果が現れる箇所は多種多様ですが、中でも注目されるのが平滑筋を収縮させる効果があることです。平滑筋は自分の意志で動かすことができない内臓や血管の壁に存在する筋肉で、子宮、子宮頸、卵巣、腟、前立腺などの生殖器に含まれています。女性器が刺激されると、このオキシトシンの分泌量が増え、筋肉の緊張が高まっていきます。さらに刺激を与えて女性がオーガズムに達すると、オキシトシンの量は増大し、子宮と腟が収縮し子宮口が開いてきます。また、オーガズムのときに分泌されるオキシトシンの濃度と、それによって起こる筋肉の収縮の強さにも密接な関係があることが分かっています。
人間以外の牛、ウサギ、ヤギ、羊といった哺乳類でも、オキシトシンの急速な増加によって子宮頸の動きが強く促されます。実際にオキシトシンという名前は、出産時に子宮平滑筋の収縮を促すホルモンである、ということからギリシャ語で「素早い出産」を意味する言葉から名付けられました。
オキシトシンは生殖器に対する影響の他に、母乳の分泌を促す効果もあります。例として、牛の腟に空気を吹き込むと敏感な腟が反応し、それに合わせて乳の量が増大します。この技術は昔に発見されたもので、何世紀にも渡り利用されています。場所によっては、オキシトシンには分娩を促し自然な出産を手助け効果があることから、出産間近の女性に対してオーガズムのあるセックスをすることをアドバイスするような文化や風習もあります。
オーガズムによる鎮静効果
他にも女性のオーガズムの効果として挙げられるのが、苦痛に対する鎮静効果です。例としては、オーガズムによって頭痛が和らぐという報告が多数されています。この鎮痛作用は、女性はオーガズムによって苦痛だと感じる境界線である閾値が、通常時と比較して大幅に上がることが原因とされています。オーガズムによって女性の苦痛に対する閾値は倍以上にも上がることが分かっています。また、苦痛以外の他の触覚や圧力刺激といった感覚には影響を与えないことも大きな特徴です。
この効果はオーガズムに限らず、腟への刺激だけでも得ることが分かっています。苦痛をどの程度抑えられるかは、刺激によって感じられた快感によって左右され、高い快感を得ることができれば苦痛に対する閾値は高ければ75%程上昇します。この苦痛を和らげる効果は人間以外にも猫やネズミなどにも見られます。例えば、メスのネズミは交尾による腟への刺激によって、強力な鎮痛剤である硫酸モルヒネ15mg/kg以上の効果を得ることが分かっています。
では、なぜオーガズムや腟への刺激にはこのような鎮静効果があるのでしょうか?
哺乳類に見られる複数のオスとの交尾習慣が1つの原因として考えられます。繰り返し交尾をしても痛みを感じないように、このような仕組みが必要だったという仮設です。交尾によって常に女性器を通じて苦痛が引き起こされるとすると、受胎に繋がるような性行為をすることが困難になってしまいます。女性が生殖器を通じて得られる快感は、種を存続させるために起きた生理的適応が遺伝されていったものなのかもしれません。
オーガズムに達するためには
人類学者であるマーガレット・ミードは女性のオーガズムについて理解を深めるための活動をしていました。1960年頃、彼女は太平洋の島に住んでいる人たちの生活を観察し、女性が性的快感やオーガズムに達することを可能とするような社会に必要な要素を述べています。彼女によると、女性がオーガズムなどの性的満足を十分に得るために必要な要素として以下の3つの条件を挙げています。
- 自分の価値を認められたい女性の欲求が認められる社会
- 女性が自分自身の生殖器の働きを理解することが許される文化
- 女性がオーガズムに達するための性的技術を教える文化