クリトリス全史【『ヴァギナ・モノローグス』の衝撃!!】

投稿日:2019年8月11日 更新日:

女性のセクシュアリティを独白(相手なしに、ひとりでせりふを言うこと)

今年2月18日、『ヴァギナ・モノローグス』というアメリカの演劇作品が、表参道の東京ウィメンズプラザで上演されました。

 

この作品は過去にも、『ま〇この話~あるいはヴァギナ・モノローグス』という邦題で上演されたことがあります。

 

もっとも原題はもっと洗練されていて『The Vagina Monologues』といい、これまでは秘密のベールに隠されていた女性のセクシュアリティを直視し、はっきりと語ることがコンセプトなのです。

 

このテーマのもとで、1996年にニューヨークにて世界で初めて上演された『The Vagina Monologues』は、初演から実に20年以上経過した今も、世界に大きな衝撃を与え続けているのです。

 

この『The Vagina Monologues』(ザ・ヴァギナ・モノローグス)の作者イヴ・エンスラーは、SNSのハッシュタグ「#MeToo」や「#TimesUp」で盛り上がるサイト上のムーヴメントの中で、“女性の未来”をどう見ているのでしょうか?

 

わずか制作から20年で、何ヶ月、何年も苦労して制作した作品が時代遅れになることを自ら望むような作家は、まずいないでしょう。

 

しかし、米トニー賞の受賞経歴を持つ劇作家、イヴ・エンスラー(64)は違っていました。

「1996年に『ヴァギナ・モノローグス』がオフ・ブロードウェイのミュージカルで上演されたとき、この作品が時代遅れになることを密かに望んでいた」と言うのです。

 

「たった20年前の芝居が時代遅れに感じるということは、20年で社会はまったく変わってしまうということなのですね。それだけ社会の動きは早いのに女性器の表現に関しては何も変わっていない」

200人の女性へのインタビューが生んだ物語

国連の調査によれば、なんと世界の女性の3人に1人が、一生のうちに暴力やセクハラ、レイプなどの被害に遭っているそうです。この衝撃的な事実に声を上げたのがエンスラーで、現在もひたむきに抵抗運動をつづけています。

 

実は先の『ザ・ヴァギナ・モノローグス』の上演活動もその抵抗運動の一環と言えます。いまや全世界で繰り広げられる『ザ・ヴァギナ・モノローグス』のチャリティー公演は、これまでに1億ドル(約110億円)という、巨額の支援金を集めています。そのお金で、レイプ被害者のためのシェルターを建設したり、性暴力被害のホットラインなどに寄付したりもしています。

 

この『ザ・ヴァギナ・モノローグス』という作品は、かつてない試みを実行しています。実に200人以上もの女性へのインタビューを敢行し、それをもとに書かれた作品です。インタビューを通じ、彼女たちに性器についての考えを聞き出し、エンスラーはその本音を語ってもらうことに成功したそうです。

 

なぜ、エンスラーはこのような大胆な試みを実行したのでしょうか?それは、女性器のように「人々の話題に上ることがないから秘密めいているのは当然のこと。さらにそれは恥や恐れ、迷信を生み出す」からだと語ります。

 

その結果、女性器から目がそむけられるばかりで、そのセクシュアリティは直視されることはなく、タブー視の対象となり得て、肝心の女性自身の声も抑圧されてしまうのです。

 

この『ヴァギナ・モノローグス』の舞台はまるで水が堰を切ったように、たちまち大ヒットし、いままで秘めてきた「秘密」は大雨のあとの洪水のように溢れ出しました。エンスラーはこの舞台の反響について次のように語っています。

 

「200人もの多くの女性が私にわざわざ会いに来てくれ、これまで自分が受けてきた暴力について打ち明けてくれたんです。そして、私は気づきました。

 

このまま漫然と舞台をつづけるということは、まるで戦場カメラマンが、殺人シーンをただ撮影するだけで、あとは何もしないようなものなのじゃないかと。」

 

このまま芝居を続けるのであれば、何か次の行動を起こさなければならない。いっそのこと芝居をやめるという選択肢もありました。そこで私は「国会議員の目の前で上演したらどうだろうか?」という次の作戦が、思いが浮かびました。

 

こうしてエンスラーの考えで、「V-Day」という草の根運動が立ち上がり、『ザ・ヴァギナ・モノローグス』は入場料をとらず、チャリティーで上演できるようになりました。

 

「すると、アメリカ全土で爆発的に、暴力撲滅運動が起きたんです。」とエンスラーは続けます。

 

まず演劇の本場ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでの公演は、18,000人を動員し、時期的にちょうどハリケーン・カトリーナの被害を受けた後のニュー・オリンズでは、なんとニューヨーク以上の20,000人もの観客を集めました。

 

やがてV-Dayの運動は全米だけではなく全世界に、その波紋を広げていきました。

 

「今では世界中の女性たちが『ザ・ヴァギナ・モノローグス』を自分たちで上演してくれています。とくに私が彼女たちに依頼して上演しているわけではありません。

 

世界各国で上演されるようになったのは、その国の女性たちの賛同を得られたに他ならず、いままで闇に葬られていた事実を語ろうと、勇気を持って最初の一歩を踏み出すようになったからです」

芸術の力で世界が変わる

しかし、世界の中には中国やマレーシア、ウガンダといった国々のように『ザ・ヴァギナ・モノローグス』の上演を禁じた国もありました。宗教上、また思想上、それに抗えない国もあるのです。ただ、この作品によって実際に法改正を実現させた国もあるのです。

 

フィリピンでは、DVや売春行為が深刻な社会問題となっていましたが、『ザ・ヴァギナ・モノローグス』をなんと議会で上演したことが原動力となって、それらを取り締まる法案さえも可決されました。なんと芸術の力が法律を動かしたのです。

 

エンスラーは続けて「これは「芸術の力」を教えてくれるエピソードです。芸術には社会をも変える力があるのです」と語りました。

 

また、先日刊行された『クリトリス革命 ジェンダー先進国フランスから学ぶ「わたし」の生き方』(太田出版)という本があります。

 

このタイトルをぱっと見て、果たしてみなさんはどう思ったでしょうか?あまりにもストレートなタイトルなので、恥ずかしく感じたでしょうか?それはなぜですか?あなたは女性が快感を得ることがそんなに恥ずかしいことでしょうか?

 

フランスで出版されたこの本の翻訳者である永田氏が考察しました。

 

「あなたは、クリトリスのことを説明できますか?事実、あなたは自分のクリトリスについてどれだけのことを知っているでしょうか?

 

たとえば、口はなぜあるの?と聞かれたら、食べるため、話すため、または呼吸するためという答えが返ってくるでしょう。あるいは「キスするため」という答えも、映画の台詞ならそれもありかも知れません。

 

いろいろな答えがありますが、クリトリスはなんのためにあるのかの答えはひとつ。「女性を幸せにするため」に他ならないのです。

 

男性器のペニスも女性器のヴァギナも、性器であると同時に生殖器としての機能をもっています。ところが、同じ女性器でありながら、クリトリスは生殖器ではないと言われます。体中のどこを探しても、快感を得る器官はクリトリス以外に存在しないのです。」

 

永田氏は『クリトリス革命』を翻訳したのは、なかなかスリリングな体験だったと語ります。

 

『クリトリス革命 ジェンダー先進国フランスから学ぶ「わたし」の生き方』

アレクサンドラ・ユバン、カロリーヌ・ミシェル・著/ 永田 千菜 ・翻訳

 

この本の著者のひとり、性科学者、心理学者のアレクサンドラ・ユバンは、長年、性の悩みに正面から向き合ってきたひとりです。

 

また、共著者であるカロリーヌ・ミシェルは雑誌に寄稿したりブログを書いたりする活動で活躍するジャーナリストであり、愛あるツッコミを交えながら、ユーモアたっぷりに性を語らせると右に出る人がいません。

 

共著をするほどの二人に共通するのは、とにかく前向きである、誰も責めないということでした。彼女たちの強烈なフレンチ・ジョークがうまく日本語になじめずに七転八倒したこともありましたが、翻訳作業は今までになくとても楽しかったそうです。

 

また多くの女性がそうであるように、永田氏がこの本で初めて知ったことも少なくありません。そのひとつは例えば、クリトリスは陰核だけで構成されているのではなく、もっと大きな器官であることです。

 

さらに、1920年代に遡って皇帝ナポレオンの血を引く女性、マリー・ボナパルトという人はクリトリスの研究をしており、手術まで受けていたことです。永田氏は50年間も生きてきて、私は自分の身体の一部であるはずのクリトリスについて何も知りませんでした。

 

もちろん世代によって異なるとは思いますが、彼女自身で言えば、「学校では何も教えてくれなかったような気がする」と彼女は語っています。

 

【挿入】=【性行為】という思い込み?!

もっとも、クリトリスに注目したのはこの本の著者たちが初めてではありません。

 

先ほど挙げたマリー・ボナパルトの研究は1920年代のことだし、その他にも1953年の『キンゼイ報告』、1966年のマスターズ&ジョンソンの研究、1970年のアン・コートの「膣オーガズムの神話」、1976年の『ハイト・リポート』など、意外にも女性器については多くの研究発表がなされています。

 

1970年代までに、すでにクリトリス研究の重要性は女性たちによって解明されていました。日本でも70年代にすでにこうした論考たちが日本語に翻訳されていたのです(アン・コートの論文は「ウルフの会」訳で、合同出版から刊行された『女から女たちへ アメリカ女性解放運動レポート』に収められています)。

 

あわせて読みたい:「この運動はフェミニズム革命と言えるほどのものではありません」

 

ところが、2020年も近づこうという今なお、インターネットで「クリトリス」と検索すると、出てくるのは出会い系サイトや風俗産業のサイトばかりです。まじめに、きちんと論考したものはまったくと言っていいほど出てこないのです。

 

また、悲しいことに70年代に敢行されたフェミニズム(当時はウーマンリヴと言われていた)関連の書籍もいまでは多くが絶版になってしまっています。その証拠にフェミニズムという言葉もほとんど死語のようになっています。

 

1970年代にせっかく明らかになった「事実」はなぜ、その後一般的に受け入れられる「常識」としてではなく、世の中から忘れ去られてしまったのでしょうか?

 

この現象を著者たちはアン・コートの論文を引合いに出しながら、女性が男性からの「挿入」以外で快感を得ることを、あろうことか男たちは承認しなかったからだと説明しています。

 

事実、女性がクリトリスを自ら刺激するだけで快感が得られるのなら男性からの「挿入」行為は不要ですし、極端な話、男性がいなくても女性は「自己完結」できるということになってしまうため、これなら男性は不要だということにもなってしまいます。

 

男性たちはその事実が本当であることを恐れてきたというのです。実際、多くの男性にとって「性行為」は「挿入」意外に考えられないと考えるのは、日本も例外ではありませんね。

 

こうした考えが根底にあるからこそ、セクシャルハラスメントや痴漢行為においても、「さわっただけ」なら「性犯罪」にならないじゃないか、という弁明ができるのではないでしょうか?これはもう、考え方のベクトルが根本から間違っていると言わざるを得ません。

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