男性器や女性器、身体的にあるものが全人類のセクシュアリティを決めるモノではありません。心とハートが男性なら、外見がどうであれあなたは“男性”であり、また女性の心とハートが女性なら、彼女は女性に他なりません。
本記事では、どうしたら性別適合手術が受けれるか、また性別適合手術の種類や手術内容など、詳しく解説させていただいていますので是非ご覧ください。
Contents
性転換手術(性別適合手術)とは?
性転換手術という言葉を耳にしたことはあるけれど、具体的にどんなことを行うのかわからないという方も多いことでしょう。性転換手術というのは、性別適合手術とも呼ばれている外科的手法のことです。英語では、”Sex Reassignment Surgery”と表記されます。
Sexは性別、Reassignmentは再割当や配属、Surgeryは手術などの意味があります。
つまり、手術によって新しい性別を再割当するという意味合いになるのです。
この英語を省略して、性別適合手術はSRSと呼ばれています。
日本では、この英語をそのまま直訳して性別再割り当て手術、性別再割当手術と呼ばれることや性別再指定手術や性別再判定手術などの名称が用いられることがあるのです。
また、日本のGID学会や日本精神神経学会などでは、性別適合手術を正式名称としてしています。
女性から男性へ、あるいは男性から女性への治療
性転換手術を行う目的は、身体は男性なのに心は女性、あるいは、女性だけど胸があることに強い違和感があるなど、性別の不一致や性同一性障害を抱えている人たちの悩みを解決することです。性転換手術は大きく分けると、女性から男性への手術のFemale to Male SRS(FTM SRS)、男性から女性への手術のMale to Female SRS(MTF SRS) の2つに分類されます。
FTM SRSで行われるのは、子宮卵巣摘出術、腟粘膜切除・腟閉鎖術、尿道延長術、陰茎形成術などの手術です。
MTF SRS では、精巣摘出術、陰茎切除術、造腟術、陰核形成術、外陰部形成術などの手術が行われています。
性転換手術は、生殖能力を永久的に失わせる不可逆的な手術です。
子宮卵巣や精巣などを摘出してしまうと、後から元に戻すことは不可能となってしまいます。
また、性転換手術後にほかの性別として子供をもうけるなど、新たな生殖機能も得ることができません。
そのため、性転換手術は、本人の強い意志にもとづいて行う必要があります。
実際、性転換手術を考える方は、性ホルモンの摂取、豊胸術、乳房切除手術などなんらかの処置を受けているケースが多いという現状があります。
すでに自己の性別としての外観を得ていることやその性別としての実生活をしていることを前提として、性転換手術が行われているケースがほとんどなのです。
日本精神神経学会のガイドラインでは、性転換手術の前に、一定期間の性ホルモンの投与を行うことや新しい性別での実生活経験を行うことを重視することを定めています。
また、病院によっては、これらのことを性転換手術を受ける条件としているところも多いです。
ハリーベンジャミン国際性別違和協会(現・世界トランスジェンダー健康専門協会)の性同一性障害の治療とケアに関する基準 第6版では、以下のように記されています。
性別適合に係る手術は実験的でも、研究的でも、美容整形でも選択的でもなく、性転換指向(transsexualism) あるいは重度の性同一性障害の治療として極めて有効で効果的である、つまり性転換手術は自分は男性だ、あるいは女性だという本人の揺るぎのない人格を尊重して、性同一性に沿うことを目的として行われるものなのです。
あるいは、性別の不一致や性同一性障害など本人の苦痛を取り除くために、女性器や男性器など内外性器の外観の調整を行う手術だと考えることもできます。
男性から女性への手術方法(MTF SRS)
次に、男性から女性への手術方法(MTF SRS)についてみていきましょう。男性の身体から女性の身体になるためには、ホルモン注射を打つ以外に、以下のような性転換手術が必要となります。
乳房形成
乳房形成は、女性のようにふっくらとした胸を作るための手術です。主に、乳房組織の下に乳房インプラントや組織エキスパンダーを挿入する豊胸術が行われています。
お尻やお腹など自分の脂肪を吸引して、それを胸に注入する手術が行われることもあります。
中には、外科手術を一切行わずに、女性ホルモンの投与だけで、胸が大きくなる人もいるのです。
精巣切除
精巣切除は、男性の生殖機能を失うことを目的とした手術です。日本では、性別の戸籍変更の際に、生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあることという条件が定められています。
そのため、男性から女性へ戸籍を変えたい場合には、精巣切除を行って、精子を作り出す精巣を取り除いておかなくてはならないのです。
陰茎切除
男性から女性へ戸籍を変更する際には、その身体についてほかの性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていることという条件も定められています。そのため、男性が女性へと戸籍を変えるためには、男性の外観を持つ陰茎を切除しなくてはならないのです。
陰茎を切るというのは、とても痛そうなイメージがありますが、手術の際には麻酔を使いますので、痛みの心配はいりません。
また、人によっては、女性ホルモンの長期投与で陰茎が小さくなってしまうこともあります。
腟形成術
腟形成術は、身体に穴を開けて、腟を形成するために行う手術です。ただ、この方法は、戸籍の性別変更の際に、必ず行わなくてはならないというものではありません。
戸籍のためというよりは、女性のように性行為を行いたいという場合に対して、行われることが多いです。
身体に穴を開けるため、大きな負担となってしまうこともあるので、性行為を重視しないのであれば、腟形成術は不要と考えても良いかもしれません。
外陰部形成
外陰部形成は、女性器の外観を作成するための手術です。小陰茎を作る際には、陰茎の亀頭の部分が用いられます。
また、大陰茎に関しては、陰嚢の一部を切除して形成されます。
この方法で女性器を作成すると、女性が感じているのとほぼ同じような性感が得られるとのことなので、性的な興奮を求めている方にとっては必要な手術となるでしょう。
腟形成術の種類
膣を形成するための手術は、大きく分けると、陰茎を利用する陰茎会陰部皮膚翻転法、大腸を利用する大腸法の2つの術式があります。それぞれの方法のメリットとデメリットについて見ていきましょう。
陰茎会陰部皮膚翻転法(反転法)
陰茎会陰部皮膚翻転法は、尿道と直腸の間を切開する術式で、造膣とも呼ばれています。陰茎会陰部皮膚翻転法では、まず最初に、尿道と直腸の間をメスで切ってスペースを作ります。
その後、その切開した部分へ、陰嚢の皮膚を移植することで、膣の形成を行うものです。
陰嚢は、あらかじめ海綿体や陰茎や精巣などを除去しておき、血流を残したままの状態で移植します。
膣の感覚を残すために、動脈と静脈と神経を繋ぐ陰茎亀頭の3分の1を移植しておき、陰核を形成しています。
ただ、腟の感覚に関しては個人差があり、すべての人が感覚を得られるわけではありません。
また、陰茎会陰部皮膚翻転法を受けた後、1年間くらいは神経が未結線となってしまうため、無感覚となってしまいます。
さらに、術後から3ヶ月以上の間、1日に2~3回程度定期的にプロテーゼを用いた拡張ケアを行って、膣の収縮の収縮も抑えなくてはなりません。
長期間女性ホルモンの投与を受けていた人は、男性器が萎縮してしまい、陰茎や陰嚢の皮膚が不足してしまうことがあるのです。
そのような場合には、尿道を利用して造膣することがあり、タイ王国をはじめとして世界中で、この方法が多く用いられています。
陰茎会陰部皮膚翻転法のメリットやデメリット
陰茎会陰部皮膚翻転法のメリットは、手術費用が比較的安いことです。料金は手術の内容や病院によっても異なりますが、150万円から180万円くらいが相場となっています。
また、自分の陰茎を用いるため、良い性感が得られやすいというメリットもあるのです。
さらに、後に述べる大腸法のように、腸を摘出することもないため身体の負担がかかりにくいこと、腟内部の臭いが少なくなる点も、この術式の大きなメリットといえます。
一方で陰茎会陰部皮膚翻転法は、結腸法よりもダイレーションの頻度や痛みが強くなってしまうというデメリットもあります。
また、陰茎や陰嚢の大きさが足りないと手術が受けられない点も、陰茎会陰部皮膚翻転法のデメリットです。
なお、陰茎会陰部皮膚翻転法を受けた後は、性交渉をする際には、ゼリーなどが不可欠となります。
大腸法(S字結腸法)
大腸法は、S字結腸法とも呼ばれており、性交渉を重視したい方に対して、用いられる手法です。大腸法では、まず最初に、尿道と直腸の間をメスで切ってスペースを作ります。
次に、下腹部を15cmほど開けて、大腸の肛門側部分であるS字結腸を使用して造腟を行います。
ただ、S字結腸は、血流を確保する目的があり、完全に腸と切り離すことができません。
そのため、腸液が常に分泌し続けてしまうため、ナプキンなどでケアをしなければならないという欠点があります。
大腸法のメリットやデメリット
大腸法のメリットは、陰茎の長さや睾丸の萎縮具合の影響を受けることなく、膣の深さが得られる点です。また、反転法と比べると、ダイレーションのメニューが軽いというメリットもあります。
腸液が膣内部に分泌されるため、性行為時に濡れやすくなることもメリットです。
一方、大腸法のデメリットは、料金が高いことです。
料金の相場は、200万円から300万円くらいと非常に高額となっています。
また、腸を一部摘出しなければならないため、身体への負担が大きくなってしまうことやお腹に傷跡が残ってしまうこともデメリットです。
そのほか、病気のリスクが高くなる、臭いがする、腟内部の性感が弱いなどのデメリットもあります。
女性から男性への手術方法(FTM SRS)
女性から男性への性別適合手術方法についても見ていきましょう。女性から男性になるためには、以下のような性転換手術が必要となります。
ただし、外科的治療を一切行わず、男性ホルモン投与だけで、男性的な見た目を得られることもあります。
乳腺摘出
乳腺摘出は、男性のようなまっ平らな胸にするために、乳腺を摘出する手術です。豊かなバストラインは女性らしさの象徴であるため、性同一性障害を抱えている人にとっては精神的に大きなストレスとなってしまうことがあるのです。
外科的手術で胸を取り除くことで、そのストレスを緩和することができ、男性的な見た目になることができます。
子宮卵巣摘出
子宮卵巣摘出は、子宮や卵巣を摘出する手術のことです。女性から男性へ戸籍の性別を変更するためには、生殖機能を欠いていることが条件となります。
そのため、子宮と卵巣の摘出が必須となるのです。
子宮や卵巣を摘出すると、生殖機能が失われますが、月経や女性ホルモンの分泌もなくなるので、男性的な見た目になりやすくなります。
鎖膣閉膣
鎖膣閉膣は、膣の粘膜を切除したうえで、縫合して閉じてしまう手術です。尿道延長
尿道延長は、男性のように立った状態で排尿が行えるようにするための手術です。下向きについている尿道を前向きに変えることや尿道の長さを延長するなど処置を行います。
この手術は、腟を縫合する際に、同時に行うケースが多いです。
陰嚢形成(睾丸形成)
陰嚢形成は、睾丸形成とも呼ばれており、人工的に睾丸を作る手術のことです。人口睾丸を作る際には、シリコンプロテーゼを用いることが多いです。
陰茎形成
陰茎形成は、男性器を作るための手術です。腹部皮弁法、陰核陰茎形成術、マイクロサージェリー法の3つの術式があります。
腹部皮弁法
腹部皮弁法では、下腹部や鼠蹊部などの皮弁を利用して、陰茎を形成します。陰核陰茎形成術
陰核陰茎形成術は、長期間の男性ホルモン療法を受けた影響で肥大した陰核の腹側の索条物を用いて手術を行います。この手術は、身体に大きな傷が残らないため、希望者が多い術式です。
陰茎のサイズが小さくて満足できない場合には、すでに延長した尿道をそのまま利用することで、本格的な陰茎形成も可能です。
マイクロサージェリー法
マイクロサージェリー法は、前腕皮弁、もしくは、上腕部のデルトイド皮弁を切り取り、筒状に細工して陰茎の形状にして、マイクロサージェリーで陰核の部分に接続する手術方法です。性交渉を希望される場合には、陰茎形成の際に内部にポケット状の空間を確保しておき、さらに、1年後に折り曲げできるインプラントの挿入手術も行わなくてはなりません。
性転換手術のリスクについて
性転換手術は、女性から男性になる場合でも、男性から女性になる場合であっても、リスクがあります。女性から男性になる場合のリスクは、皮膚細胞の壊死、異常出血、感染症、延長した尿道が閉塞してしまうなどです。
男性から女性になる場合のリスクは、皮膚細胞の壊死、異常出血、感染症などです。
人によっては、手術で作った膣が閉じてしまうことや尿道が狭くなってしまうなどのトラブルが起こることもあります。
このように性転換手術はさまざまなリスクを伴いますし、場合によっては命に関わることにもなりかねません。
そのようなリスクを覚悟のうえで、手術を受けている人たちがいるということを理解しておいたほうが良いでしょう。
性転換手術を施行するための条件について
最後に、性転換手術を施行するための条件について見ていきましょう。日本精神神経学会のガイドラインでは、性転換手術を行う際に以下のようなことを定めています。
・身体的治療に移行するための条件(上記)を満たしていること
・性別適合手術を行うことによって健康に重篤な明らかな悪影響を及ぼすような疾患が否定されていること
・プライベートな場所では、希望する性別での生活を当事者が望むスタイルでほぼ完全に送られており、この状態が後戻りしないで少なくとも1年以上続いていること
・手術に伴う休暇等の確保
・家族やパートナー等のサポートシステムが安定的に得られていること
それが得られない場合、あるいはカムアウトしていない場合には、精神的にも経済的にも安定的に自立できていること
・性別適合手術に関してインフォームド・デシジョンを行い、文書に明記して保存すること
・家族・パートナーへの説明
・年齢は20歳以上であること
性転換手術の保険適用
性転換手術が保険適用になるかどうか気になるという方もいらっしゃることでしょう。今までは、保険適用にならず全額自己負担となっていました。
ただ、2018年4月からは、性転換手術に対して医療保険が適用されるようになったので、3割負担で受けることができます。
ただ、ホルモン治療に関しては、保険対象外となっているので、全額自己負担のままです。
注意しなければならないのは、健康保険が適用される治療とされない自由診療を一緒に行ってしまうと、保険適用となる治療も自由診療となってしまう点です。
もしも、ホルモン治療を行っている人が、性転換手術を受ける場合には、10割負担となってしまいます。
性同一性障害を抱える多くの人がホルモン治療を受けていることから、実際に性転換手術は保険適用とはならないのです。
また、保険適用で性転換手術が受けられる病院も少ないという問題もあります。
今後は、ホルモン治療に対して、保険が適用されるかどうかが、重要な課題となっていくことでしょう。