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公開日:2019/09/06
最終更新日:2021/03/02

出産した女性の4割がかかるとされている病気【骨盤臓器脱(子宮脱)】

投稿日:2019年9月6日 更新日:

女性器周りの断片図

骨盤臓器脱(子宮脱)と治療法について

子宮脱の原因となる骨盤臓器脱とその治療法について見ていきましょう。

骨盤臓器脱は、子宮や膀胱、腸など骨盤におさまっている臓器が腟から出てきてしまう症状のことを指します。女性特有の病気で、この疾患になってしまう原因にはさまざまなものがあります。

この記事では、骨盤臓器脱が引き起こされる原因や症状、受診の目安などについて詳しく解説していきます。

骨盤臓器脱とは?

本来、女性の骨盤の中におさまっているはずの腟、膀胱、子宮、腸などが本来の場所から下に落ちていってしまうことで腟から飛び出てくる「子宮脱」「膀胱瘤」「直腸瘤」「腟断端脱」を総称して骨盤臓器脱と言います。「腟のヘルニア」「性器脱」「腟脱」とも呼ばれることがあります。

  • 膀胱瘤…前側の腟壁と一緒になって膀胱が下がってくる症状
  • 子宮脱…子宮が腟管を通り、下がってくる症状
  • 直腸瘤…後側の腟壁と一緒になって直腸が下がってくる症状
  • 腟断端脱…子宮摘出手術を行ったあとに腟壁が下がってくる症状で、子宮がないため小腸が落ちてくるケース(小腸瘤)もある。症状が進行したケースでは腟壁が反転してボール状になる

この中でも一番よく見られるのが膀胱が下がってくる膀胱瘤です。また、膀胱と子宮の両方が下がっているケースもよく見られます。

欧米で行われた研究のデータによれば、経腟分娩(赤ちゃんが産道を通って腟から生まれてくる分娩のこと)を経験したことのある女性のうちおよそ30%ほどに症状があったとされています。

しかし実際には、「恥ずかしい」という気持ちから、症状に悩んでいるものの医療機関を受診しない女性もいるのではないかと推定されています。

骨盤臓器脱の症状

骨盤臓器脱の症状は一つではなく、いくつもの症状を感じることがあります。腟に異常を感じたり「おかしいな?」と思ったら骨盤臓器脱になっている可能性もあります。

デリケートな悩みのため家族や友達にも相談できず、一人で抱え込んでしまう方もいらっしゃいますが、最初はほんの軽い症状でも悪化すると症状がひどくなり、生活に支障をきたしてしまう可能性もあります。

気になる症状を感じたら、なるべく早めにクリニックに相談するようにしましょう。

初期症状

まだ初期の段階で、膀胱や子宮などの臓器が腟口ギリギリにおさまっている状態では、腟の中から入り口へ何かが下がってくるような違和感や不快感(下垂感)を感じると言われています。

その他にも、下記のような症状があります。

  • お風呂で腟周辺を洗ったときに何か異物に触れる
  • 座ったときに何かが腟に押し込まれるような感覚あがる
  • 下腹部の周辺に違和感や不快感がある
  • 何かぬるぬる、もしくは、コリコリしたものがある
  • トイレで排尿をしてもすっきりしない、おしっこが残っている気がする
  • 排便がスムーズにできない
  • 午後や夕方になると不快感、異物感が強まる
  • 下着に血が付着している
  • 性交時に痛む、性交障害
  • 骨盤が痛んだり、腰が痛い
  • 痛み
  • かゆみ
  • 腟が膨らんだ感じがする

患者さんはお風呂で身体を洗うときや、トイレでお尻を拭くとき、重いものを持ってお腹に力を入れたときなどに骨盤臓器脱に気付くことが多いようです。

進行した場合の症状

たくさん歩いたり、立ち仕事をしたり、疲れてくると症状は出やすいことから午後や夕方になると不快感、異物感が強まるとされていますが、骨盤臓器脱の治療を行わずに放置してしまうと症状が悪化し、朝起きたときから腟から臓器が出てしまうようになります。

こうなると腟から飛び出た臓器の表面が乾燥し、皮膚や下着と擦れて痛んだりします。擦れて血が出ることもあり、いつも通り歩くのが難しくなってしまうこともあります。

長い間立っていることが難しくなり、掃除機などの家事、スーパーでの買い物、階段の上り下りも困難……など、進行すれば日常生活に大きな悪影響を及ぼしてしまう疾患です。また、排尿障害・排便障害も起こります。

骨盤臓器脱の原因

腟から臓器が出てくるなどの症状が起こるのは、骨盤底筋と呼ばれる筋肉の力が低下したことが原因です。

女性の骨盤内にはいくつもの臓器がおさまっており、骨盤底筋群がそれらを支えています。

しかし、何らかの原因によってこの骨盤底筋が損傷してしまったり、弱まってしまうことで骨盤臓器脱の症状が引き起こされてしまうのです。

骨盤臓器脱を引き起こす原因はいくつも考えられますが、中でももっとも大きいとされているのが出産です。

妊娠・出産

出産の時、お母さんは骨盤の大きさに対してあまりに大きい赤ちゃんを生みます。そのとき、産道となった腟や骨盤底の靭帯や骨盤底筋がダメージを受けますが、1〜2ヶ月ほどで治癒します。

しかしその後、年齢を重ねることによって骨盤底筋群が内臓を支える力が弱まってくると骨盤内におさまっている臓器を支えきれず、落ち込みやすくなります。

そのほか、下記も妊娠・出産による骨盤臓器脱のリスクが高くなります。

  • 難産
  • 多産
  • 高齢出産
  • 大きな赤ちゃん(3500g以上)を出産
  • 妊娠中の喫煙
  • 会陰切開
  • 鉗子分娩
  • 吸引分娩

加齢

骨盤臓器脱は、加齢も一つの原因です。女性ホルモンが少なくなることや、加齢によって骨盤底筋群の力が弱まることで臓器が下がりやすい状態になるのです。

骨盤臓器脱は年代が高くなるほど有病率も上昇します。

  • 20歳代…6%
  • 30歳代…22%
  • 40歳代…46%
  • 50歳代…55%

子宮摘出手術

子宮筋腫や子宮がんの治療のために子宮を摘出すると、これまであった靭帯の支えがなくなることや、子宮があった部分が空洞になることで周辺の臓器が腟に下がりやすくなります。

腹圧(お腹に力を入れる)

骨盤臓器脱になる原因の中でももっとも大きいとされているのが出産ですが、そのほかにもお腹に力を入れたり、力むことが多い場合もこの疾患を引き起こす原因となっています。

  • 肥満
  • 喘息
  • 慢性の便秘
  • 花粉症
  • 介護
  • 立ち仕事(農業や庭仕事)
  • 腹圧をかけるスポーツ
  • コルセットやガードルによる腹部の締め付け

咳をしたり、重いものを持ち上げたり、力んだりすると腹圧がかかりますが、これらは骨盤臓器脱発症が発生する確率を高めてしまいます。

太っている方も腹圧がかかりやすいため、骨盤臓器脱のリスクが高まります。また、コルセットやガードルで長期にわたって腹部を締め付けることも原因となることがあります。

骨盤底筋群ってなに?

近年では骨盤底筋に対する研究が進んでいて、いわゆる骨盤底筋群のほかに、腹横筋、多裂筋、横隔膜などの組織全体がインナーユニットとして体幹の安定に役立っているらしいということがわかってきました。

骨盤底筋群とは

骨盤底部は上から臓側骨盤隔膜、骨盤隔膜、尿生殖隔膜といわれる隔膜の3つにわかれています。
この中でも「骨盤隔膜」の中の筋肉が、尿漏れなどと深くかかわっているのです。

臓側骨盤隔膜

骨盤腔内の臓器を覆って臓器内を埋めている組織です。

骨盤隔膜

主に肛門挙筋と尾骨筋からできています。

1肛門挙筋
肛門挙筋は内側の恥骨尾骨筋や恥骨直腸筋と、外側の腸尾骨骨筋から形成されています。

内側の恥骨尾骨筋は、肛門挙筋腱弓の内側で恥骨結合から座骨棘まで渡っている骨盤底筋膜腱弓からはじまり、腟と直腸の外側を支えて前仙尾靭帯に繋がります。

外側の腸骨尾骨筋は座骨棘から恥骨枝にわたる内閉鎖筋の筋膜の肥厚部である肛門挙筋腱弓からはじまり、尾骨先端と外側縁に繋がります。

2尾骨筋
座骨棘の内面から仙棘靭帯の内側を覆って、仙骨下部と尾骨の外側にくっついています。

骨盤横隔膜は以上の2つの筋肉でできていて、骨盤の出口を塞いでいます。
肛門挙筋は左右にある筋肉が穴が開くように結合していて、尿道や腟や直腸がここを通っています。
その穴は尿生殖隔膜で覆われています。

尿生殖隔膜

尿生殖隔膜は、恥骨結合と両側の座骨結節の間にあります。
上下の筋隔膜からできていて、その間に浅会陰横筋・深会陰横筋・球海綿体金・坐骨海綿体筋・尿道括約筋などがあります。

腟と肛門との間にある結合組織中隔は、尿生殖隔膜の一番下にあり、会陰体もしくは会陰腱中心と呼ばれています。
球海綿体筋・浅会陰横筋・深会陰横筋・肛門挙筋・外肛門括約筋がここに繋がっています。

膀胱・子宮・腟などの骨盤内にある臓器は、筋肉だけではなく、筋膜や靭帯によってささえられて今の位置にあるのです。

骨盤臓器脱の受診の目安

骨盤臓器脱は命にかかわる病気ではないため、気になっても放置してしまいがちです。

また、腟という女性のデリケートな部分の疾患であることからもついつい受診を先延ばしにしてしまう方も少なくありませんが、上記でもご紹介の通り、骨盤臓器脱は悪化すれば排尿障害・排便障害を引き起こしてしまうだけでなく、生活にさまざまな支障をきたしてしまうことになります。

腟の入り口から少し出てきているほどであったり、中で膨らんだように感じるほどであれば慌てることはありませんが、不快感を感じ、かなり気になるようならクリニックを受診するようにしましょう。

また、受診の際にはドクターにしっかりと症状を伝えることも大切です。まだ症状が初期段階の場合、午前中などは膀胱や子宮などの臓器が腟の中に引っ込んでいるため、わかりにくいことがあるからです。

「お風呂で身体を洗うときにピンポン玉のようなものが触れる」「椅子に座ったときに違和感がある」「何か下がってくる感じがある」などの症状を伝えれば、ドクターも確認が行いやすくなり、骨盤臓器脱の疑いがあることをスムーズに診断することができます。子宮がん検診の機会があれば、そのときにドクターに相談してみるのもおすすめです。

骨盤臓器脱はどこに相談すればいい?

「骨盤臓器脱かな?」と思ったら、泌尿器科、産婦人科、女性外来で診てもらうことが一般的です。

骨盤臓器脱は日本では専門医がまだ少ないと言われているため、専門医に相談したいという場合には、あらかじめ調べたり、医療機関に問い合わせをしてから受診すると安心です。

尿失禁や骨盤臓器脱など女性特有の疾患を専門的に診てくれるのが「ウロギネ外来」です。

ウロギネ外来とはウロギネコロジーに関する疾患を治療する診療科のことです。ウロギネコロジーはウロ(Urology=泌尿器科)、ギネ(Gynecology=婦人科)の造語で、泌尿器科と産婦人科の領域の疾患に対応しています。

ウロギネコロジーは欧米では診療科として確立しているものの、日本ではまだまだその数は少なくなっています。

ペッサリー療法

骨盤臓器脱の治療法の一つに、ペッサリー療法があります。

 

ペッサリー療法とは、腟の中にリングペッサリーというリング状のものを挿入し、腟の中から臓器が出てきてしまわないように器具によって対処をするもので、「とりあえず」という感じで行う療法として行われることが多いものです。

 

違和感を覚える方や、合わない方もいる療法です。

腟式子宮全摘術+前後腟壁縫縮術

腟式子宮全摘術+前後腟壁縫縮術は、その名の通り手術を伴う治療法です。

 

ペッサリー療法は手術ではなく器具を挿入するだけで出来る簡単なものですが、腟式子宮全摘術+前後腟壁縫縮術は手術を行うことによって、腟から子宮を摘出し、腟を支える筋肉を補強することを目的としています。

 

子宮を摘出しない療法もありますが、古くから利用されており、現代では腟式子宮全摘術+前後腟壁縫縮術が手術の一般的な方法となります。

メッシュ手術

メッシュ手術とは、腟式子宮全摘術+前後腟壁縫縮術が子宮を摘出するのに対して、メッシュ手術は緩んだ筋膜や靭帯の代わりとなるものを人工的に作られた補強素材によって補い、補強するタイプの手術です。

 

2000年に欧米ではじまった治療法で、日本においても2005年から導入され、年々改良が進み、強度なども改善されてきました。

 

メッシュ手術は別名TVM法(Tension-free Vaginal Mesh)とも呼ばれ、腟と膀胱の間や直腸の間に本体を挿入し、固定させることで、骨盤臓器を支えるという仕組みとなっています。

 

腟式子宮全摘術+前後腟壁縫縮術と比べて違和感が少ないという利点や1週間ほどで退院できるケースが多く、22万円~23万円ほどの負担で出来る手術となります。

記事監修

駒井資弘
関西医科大学 泌尿器科学
日本泌尿器科学会 専門医・指導医