MtFの性指向は様々です。ただ、ホルモン療法や性別適合手術といった身体治療を求め、精神科から性別違和の診断を得たいと望んでいる場合、性指向の対象は男性と答えるのが模範解答となります。こういった本質的に意味のないやり取りをしてしまうと医者と患者の間には大きな溝が生まれてしまいます。
また、トランスジェンダーの性行動は、男性と女性が行う腟ペニス性交とは異なるバリエーションがあります。信頼関係がある上で質問するのであれば問題がないことは多いですが、医療者が好奇心で聞いていることが伝わってしまうと、プライバシーの侵害だと感じてさらに溝が深まる可能性があります。
中立性を守る
治療者が男女間の腟ペニス性交を正常な性行動だと捉えていると、トランスジェンダーの性交は全て異常ということになってしまいます。自分の性交を異常だと見なす医療者に対してトランスジェンダーが心を開くことはなく、治療は困難になります。FtMであっても男性と性交をする人もいれば、MtFであっても女性と性交をする人もいます。こういった性行動に対して性別違和と診断をしてしまうと、相談者は典型的なことしか答えないようにしようと心を閉ざしてしまいます。
こうならないためには、偏狭的な価値観は持つべきではありません。レッテルを張るようなことは避けて、トランスジェンダーの訴えを受容的に聞く態度が必要になります。
知ったかぶりをしないこと
トランスジェンダーの性行動は多用なため、医療者でも初めて聞くことは多くあります。時には医学教育で習うことがなく、論文にも書かれていないことを質問されることがあります。そのため、質問に対してその場で適格なアドバイスを出来ることは少なくなるでしょう。知ったかぶりで答えるよりも、わからないことはわからないと正直に答えた方が良いでしょう。その上で形成外科医や婦人科医、泌尿器科医など他の専門医師と相談を行い、一緒に考えていく姿勢や態度を示すことが重要になります。
多くある相談内容とその対応方法
恋愛対象の性別がわからない
トランスジェンダーの相談で多いのが、自分の恋愛対象がわからないといった相談です。実際に特定の性別にとらわれず両性を恋愛対象になることもありますし、自分自身の性別に混乱していることから恋愛どころではないケースもあります。そういった場合は、恋愛の対象を明確にするのに急ぐ必要はないと伝えましょう。人生の中で男性を好きになることもあれば、女性を好きになることもあるし、男女関わらず好きになることもあります。もし自分の性別で混乱している場合は、性自認を探る方向性でカウンセリングを進めます。すると心に余裕が生まれ、自然と恋愛感情を抱くようになります。
性行為、自分の身体に強い嫌悪感がある
トランスジェンダーは性交時に自分の身体的性別に違和感を感じてしまうケースが多くあります。たとえばFtMが性交時に腟や乳房に違和感を感じ、触れられたくないと感じ、MtFは自分のペニスが勃起することに嫌悪するケースです。これらは手術で解決する場合もありますが、自分の服を脱がないで行う性行為で解決できる場合もあります。また、嫌悪感以上に中身は女性なのに、ペニスが生えていて、性交時にペニスを使って性交しているのは良いのだろうかと疑問や嫌悪感を抱くケースもあります。
そういった場合は否定をせずに、何ら不思議ではなく、そういったこともあると受容的に話を聞くことで嫌悪感が和らぐこともあります。
ホルモン療法の影響
ホルモン療法を受けているトランスジェンダーは、自身の変化や副作用について相談することが多くなります。FtMに関しては、テストステロン製剤(男性ホルモン)が投与されます。すると陰核が肥大化して、性欲が強まるケースが多くなります。これらの変化に関してはFtMは望んでいることが多く、それほど問題にはなりません。
MtFには、卵胞ホルモン系の薬剤が投与されます。結果テストステロン分泌が低下して性欲の低下、勃起や射精がしにくくなるといった問題が起こります。勃起はMtFに関しては嫌悪の対象ですが、中には性機能を望むタイプの人もいます。その場合はホルモン療法の投与量の調整やタイミングの検討が必要となります。