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子宮全摘出手術
子宮全摘出術には疾患の種類や進行度によって、摘出する範囲が変わってきます。一般的には、単純子宮全摘出術や膣上部切断術は、女性ホルモンに影響が出ず、術後の性器や性交に関しては術前と変わらない膣内環境を保てます。
広汎子宮全摘出術は、膣の切除による短縮はあるものの、性交をする上では妨げになるようなことはあまりありません。
しかし、実際には早期に子宮頸がんの手術を受けた女性は性行為に苦痛を感じるような膣内環境の変化が起こっています。
また、卵巣摘出が行われ、両側の卵巣を失った場合は女性ホルモンが欠落し、膣分泌液が出にくくなることから性交痛が起こりやすくなります。
子宮膣上部切断術
膣上部切断術は、解剖学的な変化を最小限にとどめるための治療方法の1つです。膣上部の切断術は、全摘出よりも性生活に影響が出ない可能性が高いと報告があります。また、性生活の妨げとなる腹圧性尿失禁の発生率は、膣上部切断術よりも子宮全摘出術の方が高い結果となっています。
子宮頸部円錐切除術
子宮頸部円錐切除術は、浸潤癌に至っていない病変に対して行われる手術です。子宮頸部を円錐状に切除するものの、妊娠できる可能性を残したまま治療が行えます。広汎子宮頸部摘出術
早期の浸潤癌に行われる手術で、妊娠できる可能性を残せる手術の方法です。しかしこの手術ができる施設は限られています。術後のセクシャリティに関しては、確実なことが言えません。骨盤底筋障害に対する手術
膣壁成形術は、骨盤低筋障害において膣壁の補強が必要な場合に行われます。膣口の開大スペースは、性交が行えるように慎重に行う必要があります。また、患者が膣閉鎖を望む場合は患者自身の意思とパートナーの意向を話し合った上で行う必要があります。
参考リンク:出産した女性の4割がかかるとされている病気【骨盤臓器脱(子宮脱)】
膣・外陰部腫瘍摘出術
外陰部や膣壁を切除した場合は、特に問題なく性交ができる場合が多くなります。ただ、手術の範囲によっては挿入が困難になる場合や浮腫によって違和感を感じることもあるでしょう。出産時の会陰切開と会陰裂傷に対する治療
出産時の会陰切開や裂傷によって性交痛を感じる人は多くいます。そのため現在では、不要な会陰切開はなるべくしないよう推奨がされています。手術による両側卵巣機能の喪失
両側の卵巣機能を失った場合には、女性ホルモンが欠乏し、膣内環境の変化によって性生活に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。しかし、子宮を残した両側付属器摘出術後や子宮頸がんにおいて両側卵巣と子宮全摘出術を行った場合には、女性ホルモン補充療法が可能となっています。
性生殖器の温存手術
性機能には直接影響を与えない手術として、筋腫核出術、卵巣腫瘍核出術、片側卵巣温存手術、卵管切除術、卵管形成術、子宮内膜焼灼術、帝王切開術などが挙げられます。婦人科手術後の心理的影響
婦人科手術を行った場合でも、卵巣が片側さえ機能していれば膣内環境は維持されて、問題なく性交が可能です。しかし卵巣機能が残っている場合でも、性交時の不快感が残る場合や卵巣がなくなったことによる心理的ダメージが起きてしまうことがあります。また、手術痕の外見的な問題もあります。腹部切開をする場合は恥骨の上方にあるシワがよりやすい部分にそって切開を行う必要があります。
婦人科手術後の社会的影響
婦人科手術によって妊娠できる可能性がなくなってしまったり性交ができなくなる手術をしなければならなくなった場合に、パートナーから離婚を言い渡されるケースや自分から身を引くケースが見られます。このような事態を少なくするためにも、正しい判断と、配慮した説明を手術の事前に行う必要があります。もし残念ながら離婚に至ってしまった場合は、心のケアに繋げることも考慮しましょう。
人口肛門(ストーマ)の造設と性の問題
子宮摘出の際に消化管や尿管や膀胱にも手術をしなければならない場合があります。この時人口肛門を造設することになりますが、これによって性生活に心理的な影響が出る可能性は高くなります。人口肛門での心理的影響のケアとしては、セックスの前に袋の交換をしておくことや、体位を工夫すること、洗腸によって匂いを管理する、目立たない色のストーマを使用するなど、事前に指導を行うことが望まれます。
膣閉鎖について
骨盤底筋障害の手術の際、膣閉鎖が選択されるケースは少なくありません。ただここで、パートナーの本音を確認しないまま手術承諾書のサインのみで承諾を得られたと考えてしまうのは危険です。また、子宮や卵巣に対する手術の跡、離婚に至ってしまうケースもあります。特に今後の妊娠が不可能になる手術の場合は、精子や卵子の保存、受精卵保存や卵巣組織保存の可能性について、きちんと説明する必要があります。
性機能障害における婦人科手術の種類
処女膜強靭・処女膜閉鎖症
伸展性のある薄い粘膜で構成されている処女膜ですが、粘膜が分厚く、開口部が極端に小さいか閉鎖している状態が、処女膜強靭・処女膜閉鎖症です。切開することによって治療ができます。参考リンク:痛くて入らない処女膜強靭症と処女膜閉鎖症とは?
膣横中隔
膣横中隔は、尿生殖洞とミュラー管の癒合障害によって起こります。性交が可能な場合は多いですが、膣壁が伸展せずに性交痛が伴う場合は手術が必要になります。隔壁を切開することで治療できます。陰部癒着
陰部癒着は新生児から乳幼児に多くみられますが、老年期で発症することもあります。炎症によって小陰唇が癒着しているので、ほとんどは手で剥離することで治療を行います。膣欠損
膣欠損は、ミュラー管の発育障害によって、膣が極端に短く欠損した状態のことです。外性器には異常は見られません。膣が短いながらも存在する場合はプロテーゼを用いて拡張することで性交が可能な状態まで改善できます。近年は膣壁の代用として人工真皮や酸化再生セルロースの膜をプロテーゼに巻きつけ、直腸と膀胱の隙間に作った空間に造膣する手法もあります。
骨盤臓器脱に対する療法
骨盤臓器脱は、性機能を著しく失うものではないものの、排尿障害、排便障害によって不快感や羞恥心が起こり、性交が難しくなってしまうことがあります。手術方法は、膀胱癌に対する前膣壁形成術や、直腸癌に対する後膣壁形成術、Manchester方、McCall改良法、メッシュを用いたTVMといった方法を患者の希望や病状に合わせて選択します。中には膣閉鎖を望まれる場合もありますが、今後性交ができなくなることをきちんと説明し、パートナーの理解を得た上で行う必要があります。
手術治療と術後の心のケア
性治療に関する手術が成功したからといって、性機能不全が解決するとは限りません。例えば処女膜切開を行ったところで、スムーズに挿入ができるわけではないからです。心理的問題に関しては、カウンセリングや行動療法といった治療法が必要になります。
まとめ
婦人科手術を行っても、卵巣が片側さえ機能していれば問題なく膣内環境は維持できると言われています。しかし実際には心理的要因や、膣内環境に変化が起こるケースは少なくありません。また、膣閉鎖や子宮全摘出によって妊娠が不可能になった場合は、離婚に繋がってしまうおそれもあります。そういった事態を避けられるよう、事前に正しい説明と患者の心理的なケアが必要となるでしょう。
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